SIM's memo

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2012年の読書を振り返る。

 今年はまあ例年以上に読書をしなかった。何故だろう?と考えてみると、答えはひとつ。音楽にどっぷりつかっていたから。とはいえ、そこそこ読書はしてきた。否、ほぼ毎日読書はしていた。その大半が仕事絡みというのだから、不真面目で知られる小生とすれば、まったくもってお恥ずかしい限り。
 そこで、今年は印象に残った書籍をいくつか挙げて2012年を締めくくりたい。
 

室 謙二『非アメリカを生きる』(岩波新書、2011年)

 今年2012年で一番印象に残った新書がこちら。著者はかつて『思想の科学』の編集者として、またベ平連で活動してきた方。1980年代にアメリカに移住し、1998年には米国籍を取得している。
 本書では、アメリカにおける「先住者、戦争、宗教、音楽、民族」の5つの章でそれぞれ、「非アメリカ」人して「アメリカ」を生きてきた「人」たちについて綴っている。とにかく、書籍全体が静謐に包まれた雰囲気が醸し出されている。だからこそ、アイザック・ドイッチャーがいうところの「非ユダヤ的ユダヤ人」からインスパイアされた「非アメリカ的アメリカ人」なる言葉でくくろうとするのは、本書では果たして相応しかったのかどうか、と思ってしまう。このような定義を敢えてするよりも、むしろ、そのまま著者の想いを綴っていけばもっとよかったのに、と思った。
 とはいえ、本書はその静謐さゆえにこころの奥にしっかりと残る一冊である。
 

レイモンド・チャンドラー村上春樹訳)『大いなる眠り』(早川書房、2012年)

 つづいては、最近村上春樹訳で新訳が進んでいるレイモンド・チャンドラーの長編デビュー作。チャンドラーの村上訳はこれで4作目なのだが、半世紀以上前に出た双葉十三郎訳と異なるのは、原文をできるだけ忠実に訳した点。しかしながら、あまりにも忠実すぎて、指示代名詞が乱発気味でぎこちない日本語が散見されていた。もったいない。だけど、チャンドラーの乾いた中にも一瞬だけ情が彩る世界がもつ独特の雰囲気は十二分に伝わっていると思う。今年唯一読んだ小説っす。
 

『近代日本の心情の歴史』(定本 見田宗介著作集 第4巻、岩波書店、2012年)

 さて、最後に仕事で読んだ書籍で今でもちょこちょこ読み返しているのがこちら。副題に「流行歌の社会心理史」と名付けられているように、人びとに歌われてきた「歌」を社会心理学のアプローチで分析した記念碑的労作。原本は1967年に出版されたので、45年は経過している。しかし古さはほとんど感じられなかった。むしろ出版当時の熱っぽさ、30代でこれからガンガン仕事をやっていくぜ、という見田の意気が感じられた。
 結局、心情というのは「歌」に反映されやすいのだ。そこから時代の気分や傾向が見えてくる。時代が「歌」をつくるのだろうけど、「歌」が時代をつくっていった面もあるのかもしれない。それは1914(大正3)年に上演、レコードに吹き込まれた「カチューシャの唄」の例がその象徴と言えよう。
 明治期以降の日本における大衆音楽史を語る上で、本書は無視出来ない基礎文献である。
 

おまけ:蓮實重彦夏目漱石論』(講談社文藝文庫、2012年)

 ということで、上記3冊にこちらを挙げておこう。著者の漱石論だから面白くない訳がないのだが、この講談社文藝文庫版は、著者の略年表が掲載されている。これがとても面白いのだ(ユニークという意味も含めて)。大方の読書にしてみたら、どーでもいいような著者の情報まで掲載されているのだから、やっぱり年表は読ませてナンボのもんなんだなあと実感。これだけを読むために、図書館で借りられることをお勧めする。
 
 しかしながら、2012年は沢山読めなかった。2013年は面白い書籍と巡り会えるといいなあ。
 

大いなる眠り

大いなる眠り

夏目漱石論 (講談社文芸文庫)

夏目漱石論 (講談社文芸文庫)