SIM's memo

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睦月読書漫談

 2013年も残すところあと10ヶ月余となり、流れゆく時の早さにまったくもって愕然とするばかり。そんなこんなで、先月読了した書籍たちを簡単にレヴューしておこう。
 

Musicをめぐるお話

 仕事のため、日本におけるレコード文化の歴史を知っておかなくては、と思い『日本レコード文化史』(岩波現代文庫)を読む。原本の東京書籍版では500頁余あったのを文庫化にあたって、コンパクトにしたようだ。とはいえ、基本的な情報を押さえたいものにとっては読みやすかった。レコード文化の変遷を辿ることは、単に振り返るのではない。アドルノが憎んで止まなかった文化産業という名の同一化、画一化とどう向き合ってきたかを知ることではないか。
 そんな小難しいことを考えるのは柄でもないので、仕事でお世話になった方が昨年暮出版した『SPレコード 蒐集奇談』(ミュージックマガジン)でこころ和ませる。著者の岡田則夫さんは今では神田神保町の古本屋のオヤジになったが、その前はSP*1盤をこよなく愛する一介のサラリーマンだった。そんな岡田さんが『レコードコレクターズ』に断続的に連載していたエッセイを自選してまとめたのが本書。SPレコードについて知ることもできるが、本書は何よりも旅の本なのだ。読むと旅に出たくなること請け合いだ。
 そんなこんなで、音楽をめぐる旅は僕自身の音楽ルーツを辿る旅でもある。詩人の長田弘氏による『アメリカの心の歌』(みすず書房)は、以前(1996年)に岩波新書から出版されたのだが、昨年(2012年)に増補決定版として刊行された。めでたいことだ。個人的にはやっぱりCountryとRockを融合した男Gram Parsonsをめぐる箇所だ。音楽は自分を知るためのものでもある。それ以上に、音楽は愛する人たちへの贈り物でもある。本書を読んで、今の仕事を相対化できたのが収穫だった。
 

久しぶりに

 そしてそして。先月になんとウラジーミル・ナボコフによる文学講義本がめでたく文庫化されたので、ナボコフ・ファンとすれば読まずにはいられず、すぐ読了。とにかく、ナボコフの細部への注意を喚起しつづける姿に感銘を受ける。『ボヴァリー夫人』に『ユリシーズ』はいいとして、何故『ジギル博士とハイド氏』を採り上げた?と思う向きもあろうが、アングロ・マニアのナボコフには馬耳東風だろう。それはさておき、細部を愛で、描写を丁寧に読むという態度はまさに味わうという表現がぴったりだ。これを読んで、原作を読んだ気分になれたとすれば、ナボコフ冥利に尽きるのだろう…か?


日本レコード文化史 (岩波現代文庫)

日本レコード文化史 (岩波現代文庫)

SPレコード蒐集奇談 (ミュージック・マガジンの本)

SPレコード蒐集奇談 (ミュージック・マガジンの本)

アメリカの心の歌   expanded edition

アメリカの心の歌 expanded edition

ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)

ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)

*1:Standard Playerの略