SIM's memo

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道化者、黄泉の国へ

 山口昌男が亡くなった。81歳。晩年は脳梗塞を患い、表舞台から姿を見せなくなった。しかしかれの仕事に多くの人たちが刺激され、また励まされてきたと思う。ぼくもそんなはしくれのひとりだ。
 
 学生の頃、「山口昌男」の名はぼくにとっては憧れであり、手に届かないが思想の森へと誘うマエストロであった。たしかユリイカの別冊特集で「20世紀を読む」という対談で、お相手の学魔高山宏とともに縦横無尽に本を語り尽くしていた。本人たちから見れば、ほんの小手先にすぎなかっただろう。しかし何もわかってない僕にとっては、かれらの口から発せられる人物名は、まさに綺羅星の如く輝いていた。
 この対談を読んだ前後だっただろうか、はじめて山口昌男の著作を読んだ。名著の誉れ高い『本の神話学』(中公文庫)だ。そこには、今でこそ多く語られているヴァールブルク文庫について、あるいはピーター・ゲイの『ワイマール文化』の翻訳(今出ている前の翻訳ver.)への歯に衣着せぬ批評など、とてもとても眩しかった。ぼくにとて、蒙を啓いてくれた本の一冊だ。その後、『道化の民俗学』『文化の詩学』『文化と両義性』『「敗者」の精神史』『「挫折」の精神史』『内田魯庵山脈』と立て続けに読んだ。「中心と周縁」という見方で、マージナルなものへの視点を教えてくれた。それを手に、20代の頃のぼくは、調査に没頭し論文などを書いた。そこには、常に山口昌男の陰があった。
 
 山口昌男の魅力とは一体どこなのだろう?切り口の斬新さもあっただろうけど、やはり語りではなかっただろうか。今、手許にかれの本がないので引用はできないけど、音楽的な構成と文章だったと記憶している。だから、気がつくと読み終わっている、ということがしばしばあった。そういう意味では、かれの文体は見世物的でもあるし、音楽的でもあった。やっぱり、山口は稀代の道化者であった。混沌とした今こそ、山口昌男の送りだした本がちゃんと評価されるように思っている。

山口昌男著作集〈1〉知

山口昌男著作集〈1〉知