読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

SIM's memo

Books, Foods, Rock 'n' Roll…and more!

Farewell!

 Kさんという女性が亡くなった。84歳。昨年、番組の取材でお世話になった方だ。梅雨の頃、打ち合わせではじめてKさんのお宅を訪問した。着物姿で白髪のKさんは、小柄ながら姿勢もちゃんとしていた。その凛とした姿は今でも忘れられない。小一時間お話を聞いた。記憶力はしっかりとしていて、話も明快で澱みがなかった。収録当日、あれこれと気を遣っていただき、楽しく収録が出来た。その時も、普段通りの着物姿ではあったが、さすがにマイクを向けると緊張されているのがよくわかった。
 
 後日、あらためてお話を聞きにお邪魔した。いつも通りの着物姿。日の当たらない薄暗い居間は、かつての僕の実家に似た雰囲気があった。Kさんがお住まいの家は旅館だったという。そのため、独特の入り組んだ家のつくりをしてた。欲しい話を収録する前、あれこれとKさんの身の上話をうかがってみた。その語り口は淡々としていたが、どこか凄みを感じた。結婚後の様々な苦労、金銭トラブルによる身内の裏切りなどの話など。時を刻む音だけが居間を包み込む。僕は身体全部でKさんのお話しを聞いた。Kさんが生まれ育ち、今なお暮らす町の話は面白かった。人がしっかりと生きていた。今はなくなってしまった町の景色を、Kさんのこころの中ではいつも生きていた。そしてそういう話をすることで、Kさんが生きたかつての町の姿はいつでも甦ることができた。しかし、Kさんが亡くなったので、もうその町は二度と見ることができなくなった。
 
 お通夜の席で、僧侶がお経を唱える声を聞きながら、祭壇にかかげられたKさんの遺影を僕はずっと見つめていた。Kさんは多くのことを小さな身体で一身に背負っていた。僕がKさんから教えられたことは、人生は辛く厳しいことの繰り返しだけど、それでもしゃんとして生きていかなくちゃあいけない、ということだ。最後にお声を聞いた2月、またお伺いしますねぇ〜と言った。次にあった時には、永遠の眠りについているKさんと対面したことが、今なお、僕の心の中でわだかまりとなってくすぶっている。
 
Kさん、ありがとう。さようなら。人生の坂道は思いのほかキツいけど、僕はKさんとあえたことを忘れません。
ありがとう。