SIM's memo

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卯月読書漫談(上)

 「4月は残酷な季節だ」という手あかにまみれつつあるT.S.エリオットの言葉を待つまでもなく、僕にとっての4月は残酷さプラス、リビドーほぼ全開な一ヶ月だった。こういう時は何故だかわからないが、意外と良書そして読書をする機会が増える。てなことで、2013年4月に読んだ本たちをざっとコメント(著者名は敬称略)
 

言葉と世の中に対峙する

 4月上旬、鈍行で岡山・香川方面を旅した際に持っていったのが、影浦峡の『信頼の条件』(岩波科学ライブラリー)。副題に「原発事故をめぐることば」とあるように、2011年3月の福島第一原発の事故をめぐる専門家や知識人たちがどのような発言をしてきたのか、そのレトリックなどを含めて考察している。専門家である、ということだけで発言の担保になっていることの脆弱さ、そしてそうであるが故に、原発事故をめぐる言葉が発言の受けてであるわれわれに責任転嫁されているという事実を改めて見つめるにはいい1冊。そして世の中の不条理や弱者の居場所を確保するために闘いつづけた管野すがの生涯を綴った絲屋寿雄『管野すが』(岩波新書)。発売から半世紀近く経とうとしている良書ではある。しかし、そろそろ大逆事件で刑死した革命家というレッテルを脱がせてあげて、彼女が何故旧習と闘いながら、愛に生きようとしたのか、「革命と愛」というテーマは小説にこそ相応しいのだが、それでもなお、学術的に再評価して欲しいと思った。
 

管野すが 平民社の婦人革命家像 (岩波新書 青版 740)

管野すが 平民社の婦人革命家像 (岩波新書 青版 740)

東瀬戸内海への旅にちなんで

 今回の旅のお供に選んだのが、藤田達生秀吉と海賊大名』(中公新書)。新書というサイズの書籍だからといってなめてはいけない。学術論文の定石である先行研究に対する批判、そして新たな説の提示がされている。それ以上に、やっぱり瀬戸内海の景色を眺めてから読んでみると、想像する風景が一挙に極彩色になる。戦国期に関心を寄せる人には良書。そして、倉敷市児島地区は『古事記』において、9番目に生まれた「吉備の児島」であることにちなんで、千田稔『古事記の宇宙』(中公新書)を読む。本書は『古事記』に登場するトポスをテーマごとに綴っている。一読すると『古事記』をめぐる随筆かなあと思ってしまうが、さにあらず。古代の人びとが自然とどう対峙してきたかがわかる。ただ、『古事記』の自然観と現代の環境問題をなんとか接続しようとするところは、いささか牽強付会ではあった。そして、倉敷に行き、大原美術館を外観だけだが見てきたので、兼田麗子『大原孫三郎』(中公新書)。大原の実像については広く認知されているとは思わない。だから、新書のようなコンパクト・サイズの本で知られるというのはいいと思う。彼は実業家であるとともに、知的インフラを整備しようとした理想家でもあった。個人的には、かれの行動を支えていたのが聖書と二宮尊徳だったというのが、結構興味深かった。なお、渋沢栄一など大原とほぼ同時代を生きた経済人をとりあげた第7章「同時代の企業家たち」は入れる必要性はなかったのでは、と判断している(今月は結構長くなりそうなので、後半へ続きます)。

秀吉と海賊大名 - 海から見た戦国終焉 (中公新書)

秀吉と海賊大名 - 海から見た戦国終焉 (中公新書)

古事記の宇宙(コスモス)―神と自然 (中公新書)

古事記の宇宙(コスモス)―神と自然 (中公新書)

大原孫三郎―善意と戦略の経営者 (中公新書)

大原孫三郎―善意と戦略の経営者 (中公新書)