日本国憲法前文をはじめてちゃんと読む(9)
現行憲法と改正草案を読み比べる 〜最終段〜
それぞれの前文の最終段を見てみよう。
【現行憲法】
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ
【改正草案】
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。
両者とも主語は「日本国民」である。しかしつづく第2文目は大きく異なる。
- 国家の名誉にかけ(現行憲法)
- 良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため(改正草案)
現行憲法の場合、「国家の名誉にかけ」は「目的」ではなく、次の「崇高な理想と目的を達成すること」を修飾している。一方、改正草案の場合、一読してわかるように「憲法を制定する」ための「目的」を述べている。つまり、「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため」の憲法である、と「人類普遍の原理」にも国外という他者への配慮をもかなぐり捨てて宣言している。極論を言えば、「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため」であれば、憲法が保障してくれるという旗印の下、拡大解釈さえ可能なのである。これは、現行憲法が最終文で「全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」と宣言しているのと隔世の感がある。
ポイントの整理
以上、素人の覚束なさながら、現行憲法と改正草案それぞれの前文を読んでみた。これまでの記事で検討し、改正草案の前文を批判してきたポイントをここで整理してみる(( )内番号はそれぞれの記事に対応している)。
- 「人類普遍の原理」の削除(3・6)
- 「他者」の排除(4)
- 「天賦人権説」の隠蔽と「基本的人権の尊重」の制約(6・7・8)
- 「当然」「義務」という名の下の憲法・・・「自由」をめぐる「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」の相克(8・3)
いずれも、「個人」の人権を尊重する担保となっている「基本的人権」について、改正草案の前文ではどう描かれているかを批判的に見てきた。ここで補足として、3の「天賦人権説」について見ておこう。ただ、次項は長くなるので、記事を改めて、私見をまじえて述べてみる(続く)。