SIM's memo

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文月読書漫談

 7月はなんだかだで読書ができたような気がする。久方ぶりに面白く読めた書籍に巡り会えたことが大きいだろう。7月もとうに過ぎてしまったが、ここではその中から2つの傾向のもとに読書をしてきた軌跡を簡単に述べてみる。


 

言葉をめぐって

 日常、半ば無意識に操っている(と思っている)言葉について、少し別の角度から見てみると、ハッとさせられる瞬間が味わえる。そんなことに気づかせてくれるのが野矢茂樹・西村義樹『言語学の教室』(中公新書だ。講義(というか、対話)形式で議論が展開されているので、読んでいて疑問に思ったことを、生徒役をかってでた野矢氏が鋭く先生である西村氏に投げかけてくれる。いささかムズカシイところもあるが、丁寧に読んでいくと面白い。対話といえば、柄谷行人蓮實重彦全対話』(講談社文藝文庫)は600頁あまりあるが、一気に読ませてくれる。互いに饒舌かつ緊張感のある対話なので、頁数のわりにはだらけるところが少ない。現代はポスト・モダンがとっくに過ぎ去ったと思われている節があるが、本書を読めばそんなことはないことを痛感する。30年以上の前の対話が主だが、モノの見方という点では、根本はあまり変化していないこともわかる。両者の対話で再三言及されていたのが、哲学者のジル・ドゥルーズ。数多あるドゥルーズ論の中、國分功一郎ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)は出色と言っていいだろう。個人的には、ドゥルーズの自由間接話法を手がかりに、晩年期の『哲学とはなにか』から、かれのスタンスを探っていくあたりは唸ってしまった。哲学が決して机上の空論でないこと、そして言葉が人間と不即不離である以上、哲学は生きていくための地図を提供してくれることを改めて実感出来た。

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)


 

歴史をめぐって

 そろそろ終戦記念日が近づいている。毎年なのだが、僕は歴史に関する本を読んでしまう。今年はアンドルー・ゴートン『日本の200年(上・下)』(みすず書房から読み始めた。「200年」とは銘打っているが、実際は徳川体制が敷かれた400年前から書きおこしている。では「200年」に一体何が込められているのか。おそらく、当時鎖国体制を何とか維持していた日本が19世紀に入り、世界史の枠組みに我知らず組み込まれようとしていたこと。そして、そこから日本の近代がはじまったという著者の視点があるのだろう。バランスをとった記述に物足りなさを感じるかもしれないが、とにかく読みやすくまた信頼できる通史である。
 さて、「外国人から見た日本」に関する書籍は数多ある。長らく幻の書籍と目されたオーテス・ケーリ『真珠湾収容所の捕虜たち』(ちくま学藝文庫)は、その中でも復刊が待ち望まれた書籍である。著者は宣教師の子息として小樽で生まれ、日本語を自在に話し書くことができた。そんな著者が太平洋戦争中、軍人として日本人捕虜収容所で経験したことが率直に語られている。20代になったばかりの一青年が、人が集まり組織となり、様々な困難が立ちはだかる際の著者の姿勢は学ぶべき点は多い。
 アジア・太平洋戦争終結後、アメリカ主導による戦勝国による「東京裁判」に至るまでの過程を追った粟屋憲太郎『東京裁判への道』(講談社学術文庫は、上層部が如何にこずるくまた器がちっちゃかったかがよーくわかる。こういう人間が何故戦争へ突き進ませたか、このことをよーく考えてみる必要があろう。そんなことをも考えさせてくれる書籍だ。
 占領下、GHQが日本のあらゆるメディアを検閲していたという事実は、近年の研究により少しずつ解明されつつある。山本武利『GHQの検閲・諜報・宣伝工作』(岩波現代全書)は、占領下のメディア研究の第一人者である著者が、自身のライフワークでもあるインテリジェンス研究の成果を踏まえ、検閲の実態を包括的に記述している。ただ、文学作品の検閲に関する記述は、地方の文学者たちへの視線がいまひとつ弱い点でいささか不満は残った。とはいえ、占領下のメディア研究の新たな基礎的書籍であることには変わりはない。

日本の200年[新版] 上―― 徳川時代から現代まで

日本の200年[新版] 上―― 徳川時代から現代まで

日本の200年[新版] 下―― 徳川時代から現代まで

日本の200年[新版] 下―― 徳川時代から現代まで

真珠湾収容所の捕虜たち:情報将校の見た日本軍と敗戦日本 (ちくま学芸文庫)

真珠湾収容所の捕虜たち:情報将校の見た日本軍と敗戦日本 (ちくま学芸文庫)

東京裁判への道 (講談社学術文庫)

東京裁判への道 (講談社学術文庫)

GHQの検閲・諜報・宣伝工作 (岩波現代全書)

GHQの検閲・諜報・宣伝工作 (岩波現代全書)