記憶と食べ物
プルーストの『失われた時を求めて』で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌから、過去の記憶が喚起されたように、その土地で食べたものがそこの記憶と分ち難く結びつくことがある。僕にとっての金沢の記憶は、まさにそうだ。
数年前、金沢の武家屋敷を訪れた際、せっかくだからとお茶を立ててもらった。抹茶とともに出された和菓子がとても上品で美味だった。お茶をたててくれた方に和菓子のお店を尋ねたら「茶菓工房たろう」だと教えてくれた。
武家屋敷を後にして、早速「茶菓工房たろう」を訪ね、先ほど食べた和菓子「地の香」を購入。きなことマカダミアン・ナッツという組み合わせに驚いたが、その味が甘すぎず絶妙に上品。噛むとマカダミアン・ナッツの香ばしさも感じられる。抹茶に限らず、紅茶やコーヒーにも合う味。季節は10月下旬。北陸に冬の足跡がそろそろ聞こえてくる頃だった。
その後、このお店がインターネットでも注文できるとのことなので、一度だけ頼んだ。金沢の記憶を結びつける和菓子なのに、何故一度だけしか頼まなかったのだろう?しかし今冬、久しぶりに「茶菓工房たろう」の和菓子を食べたくなった。ちょうどお歳暮の時期だったので、まとめて注文した。
上の写真は、お世話になっている方へのお歳暮に注文した「紅紬」。5種類の羊羹と「地の香」2本と「もりの音」1本のセット。シンプルなパッケージ・デザインだけど、洗練されている。羊羹の重みと四角の箱から手のひらへしっかりと伝わる。自分用にバラで羊羹を2本と「地の香」と「もりの音」をそれぞれ1本ずつ購入。
赤と白のパッケージがなんだかめでたい。ここのところ、気持ちがかなり塞いでいたので、少しは慰められた感じがした。ちなみに、羊羹は甘すぎず、しかししっかりとした存在感を出している味でした。
久しぶりに「地の香」を食べたら、やっぱり懐かしかった。秋の日差しが傾きかけたあの日に食べた味のままだった。そして、次の日に僕は"This is IT"を金沢駅前の映画館で観た。
金沢に行きたくなってきた。