SIM's memo

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2013年の読書を振り返る(4)

 以前、2013年は小説をまったく読まなかったと述べた。しかし、これはかなりの嘘つき(と物忘れ)で、何冊かは読んでいた。

とはいえ、たった2冊しか読んでいない。この2冊については、以前拙ブログで書いているので、よかったら読んでみてください。真面目に書いてます。

そういうことで、今回は2013年に読んだ「文学」の範疇に入るであろう作品の中で印象に残っているものを以下に挙げてみる。

 いったい今の日本でゴンクールの名前を聴いて胸ときめかせ、心躍る人は何人いるのだろう?*1しかーし、日本にとってゴンクールの功績を挙げるとすれば、やっぱりパリのサロン等に早い時期から浮世絵を紹介し、ジャポニスムの種を蒔いた点だろうか。*2そんな兄弟の周りに起こった出来事など綴ったゴンクールの日記(下)』が手頃に読めるのだから、19世紀フランスに関心を寄せる人にとってはまったくもってめでたいこと。文庫版は抄訳だけど、十分愉しめる。個人的には、フローベールに関する叙述が面白かった。
 そんな我が敬愛するフローベールの意地悪さとエスプリなどが堪能できるのが『紋切型辞典』。とにかく、一読されたし。解説と註釈が充実しているし読みやすい。
 フローベールを愛していたのがナボコフ。かれがアメリカへ亡命し、イェール大学で教えていた時の講義本ナボコフの文学講義(上・下)』が遂に文庫化された。文庫化に際し、タイトルが若干変更されたのでわかりにくいが、本書はヨーロッパ語圏で発表された作家たちの作品をひとつずつ採り上げてナボコフ流に料理している。細部に神が宿っていることをこれでもかと教えてくれる。重箱の隅をつついていると言うなかれ。小説を味わうというのは、パッと読んでわかるところに醍醐味があるのではないのだ。小説は“味わう”ことというのを本書は教えてくれる。
 ナボコフは“tale”の力を信じていたし好んでもいた。我邦は他の地域に負けないくらいお話の宝庫である。数多あるお話の玉手箱の中で『今昔物語集』はチャンピオンだと思っている。一応、仏教説話という体裁なので、なんでもかんでも仏や観音様・地蔵様などによるご加護のおかげというオチにはなっている。しかし、そんな宗教的要素を差し引いても、面白い。1000年以上前のことではあるけど、人間の欲望はまったく変わっていない。進化とか成長とか言うけれど、本書を読めばそんなのどーでもよくなる。愚かなり、人間。しかしまた、愛すべき人間たち。欲望バンザイ!観音様バンザイ!
 
 そんな訳で、今年はあまり小説というか文学関連を読まなかった(というか、読めなかった)。来年も引き続き、あまり小説等を読まないんだろうなあ。それはそれで、寂しいことかもしれないけど、読めないんだから仕方なし。
 

ゴンクールの日記(下) (岩波文庫)

ゴンクールの日記(下) (岩波文庫)

紋切型辞典 (岩波文庫)

紋切型辞典 (岩波文庫)

ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)

ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)

今昔物語集―本朝部〈上〉 (岩波文庫)

今昔物語集―本朝部〈上〉 (岩波文庫)

*1:個人的にひとり思い浮かべることはできます。

*2:ゴンクール兄による『歌麿』はなかなか面白い評伝というか研究書です(邦訳は平凡社東洋文庫)。