一期一曲(9)
The Who "Pictures of Lily"(1967)
The Whoのというよりも、若きPete Townshendがつくる曲には、10代の男の子あるあるのようなものが多い。数ある中でも、今回採り上げる"Pictures of Lily"はなかなか秀逸な曲である。
朝起きても気分悪いし、夜もなかなか寝付けない男の子が、父親にその悩みを訴える。すると父親は、これをあげようと息子に女性のピンナップ写真を渡す。その写真を見ていると、男の子のモヤモヤとした悩みは一時的ではあれ解消される。けれども、その写真をみてモヤモヤは解消されるどころか、すっかりその写真の女性(つまりLily)に恋してしまったことに気付く。Lilyに会いたい気持ちを父親に伝えると、Lilyは1929年にすでに死んでしまっていると語ったというストーリー。わずか2分半あまりでこんなストーリーが展開されているのだから、Peteの才知がよくわかる。
さて、この曲はあろうことか、ロックにおける最初にmasturbationについてうたった曲と言われる。これはPeteの評伝*1を執筆したMark WilkersonがPeteが書いたとして引用している("Merely a ditty about masturbation and the importance of it to a young man.")。まったくそのように解釈できないとまではいいきれないが("Pictures of Lily helped me feel alright"とうたっている)、いささか牽強付会のきらいはある。
そういえば、この手の話は日本の昔話にある(たとえば、「絵姿女房」)。そういえば、手塚治虫の「るんは風の中」(1979)も"Pictures of Lily"と内容は近しい。C.G.Jungならば、このこととアニマがさせたことと述べるだろう。それが創造的な方向へ行けば、素晴らしい力を発揮する。けれども、アニマ(ここでは"Pictures of Lily")の魔力にはまってしまうと、どこまでも自分を見失ってしまう。この曲で父親の存在というのがとても気になるのだが、いずれにしても、Peteのつくる曲は男性にとって結構考えさせられる。
ちなみに、アレンジは素晴らしい。John Entwistleの演奏するフレンチホルンがいいアクセントになっている。
- アーティスト: ザ・フー
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*1:Amazing Journey: The Life of Pete Townshend,2006