SIM's memo

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一対他の世界 ─『きょうの猫村さん』を読む(1)─

 えー、皆さんはじめまして。数年前、志賀直哉の『暗夜行路』における主人公とその妻との関係について、ジョン・バースのエッセイをモチーフに語ったことがありました*1。今回は、最近ふたたび読み返した漫画をとりあげようと思ってます。その漫画とは『きょうの猫村さん』です。皆さんの中でもすでに読まれた方がいらっしゃると思います。この漫画は2003年7月から、一日一コマでweb上で毎日連載するという画期的?なスタイルで登場しました。現在、出版元のメールマガジンに登録(無料)をすればweb上で連載を読むことができるようです(猫村.jp)。そして、単行本は7巻、文庫版では5巻まで発売され、ウェブ・コミックの単行本化がベストセラーになる先駆けとなった作品です。
 出版背景の説明については、このあたりまでにしておきます。今回は『きょうの猫村さん』の3巻をテクストに、皆さんと読んでいきたいと思います。『きょうの猫村さん』は、ゆるいタッチに似合わず、実によくできた漫画だと思ってます。とりわけ、主人公(主猫公?ですが、面倒なので主人公に統一します)の猫の家政婦「猫村ねこ」(以下、猫村さんと表記)が、登場人物たちのいわばMedium(媒体/媒介)として機能しており、それが物語を生き生きとさせています。
 ところで、何故3巻をとりあげるかについて一言申しておきましょう。1・2巻が物語のプレリュードだとすれば、3巻から本格的に物語と登場人物たちの関係が見えはじめてきます。猫村さんを媒介にして、登場人物たちの意識/無意識レベルがはっきり読者に見えてもくるのが3巻の特徴でもありましょう。登場人物たちの行動やそこから見える象徴的なふるまいを読むということは、自分の身近な世界を読み解くことにつながっていきます。世界を読み解く鍵が、いわゆる様々な批評理論です。『きょうの猫村さん』3巻を皆さんで読んでいくことで、もしかしたら、様々な批評理論が隠されているかもしれません。幸い、最近岩波文庫からテリー・イーグルトンの名著『文学とは何か』が2巻本として再刊されました。イーグルトンのこの本は、世界を読み解くための有効でわかりやすい本です。私の話はイーグルトンの名著の下手な焼き直し、あるいは下手な応用に見えてくるでしょう。その時こそ、『文学とは何か』を手にするタイミングだと思います。
 
 前置きが長くなりました。それでは、さっそく『きょうの猫村さん』3巻についてお話していきましょう(つづく)。

*1:私のうっかりミスで、この記事は削除しちゃいました。