尾道漫遊記(2)
文学記念室近くの坂から尾道水道をのぞむ
2日目。朝7時の電車で尾道へ向かう。尾道は前々から行きたかった。けれども、特に調べることもせず、「しまなみ街道」が走っているのと、若き日の志賀直哉が父親に反発し隠遁したところと、僕が卒論で取り上げた美学者の中井正一の生まれ故郷くらいしか知らなかった。とはいえ、5年前、鈍行列車ではじめて尾道を見た時の感動は今でも忘れることができない。尾道駅に近づくと、尾道水道を囲むようにカーブする。港町とはまた違った独特の光景にはっとした。
8時10分すぎに到着。駅の観光案内板を見ると、古寺めぐりができるということで、志賀直哉旧宅の道すがら訪れることにした。
山陽本線沿いを歩き、踏切を渡って右の坂道を登ると持光寺の入り口が目に飛び込んでくる。お寺の隣にある土堂小学校から先生の大きな声が聞こえてくる。境内には赤や白の花々が咲き、住職の奥さんが草むしりをしていた。
古寺めぐりコースは石畳で結ばれている。持光寺から光明寺までの狭い石畳は人家裏を通る。石垣を見ると、尾道の歴史が息づいているのがわかる。
光明寺から宝土寺へ向かう途中、黒猫がこちらに背を向け佇んでいた。近づいても逃げない。だけど背を向けたまま。そして触っても逃げない。人に慣れているのだろう。後にわかったのだが、尾道は猫町らしい。
宝土寺の境内の桜は赤くつぼみを膨らましてはいたが、咲きそうで咲かない状態だった。あと数日もすれば、きっと淡いピンクの花を咲かせるのだろう。
どうやら、知らず知らずのうちに、千光寺新道を歩いていたようだ。これも後にわかったのだが、だいたいビュースポット、あるいは撮影ポイントというのは決まっているらしい。石畳のある坂道、石垣、そして蔵。遠くにのぞむ尾道水道。この風景がいわゆる「尾道」なのだろう。(続く)