SIM's memo

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尾道漫遊記(3)

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文学記念室下の帆雨亭の桜。ところどころ花びらが開いていた

 まだ9時前だった。文学記念室と志賀直哉旧宅は開館前だった。文学記念室下の石畳を抜けると、休憩スペースがあり、猫たちが思い思いに佇んでいた。立派なカメラを持った女性が猫たちを撮影していた。彼女の邪魔にならないよう休憩スペースのベンチに座っていたが、1匹の猫が僕の隣にきて座ってしまい、彼女の撮影の邪魔になると思い立ち去った。
 千光寺道を登り振り返ると、観光客たちが何名か歩いていた。眼下には、尾道水道がはっきりと見えた。あいにくの曇天だったが、海のややくすんだ青が春にふさわしく感じた。
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 中村憲吉旧宅そばからは、南北朝時代の創建で、国の重要文化財に指定されている天寧寺三重塔(海雲塔)が見えた。創建当時は五重塔だったが、元禄年間に上層二塔を取り除き、三重塔に改修したとか。ここからの眺めも「尾道」らしい。
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 9時になり、文学記念室へ向かった。国の登録有形文化財でも旧福井邸を利用していて、林芙美子をはじめ、尾道にゆかりのある文学者たちの品々を展示している。林芙美子は一度も読んだことがないのだが、建築家白井晟一との親交はとても興味深かった(余談だが、白井が兄事していたのが哲学者の戸坂潤だったこと、そして戸坂の紹介で美学者で尾道出身の中井正一の師匠でもあった深田康算に親炙していたことも興味深い)。
 文学記念室を早々に立ち去り、次に志賀直哉旧宅へ。今回の尾道行は志賀直哉旧宅を訪れるのが最大の目的だった。ちなみに、志賀直哉の代表作『暗夜行路』では、ここから眺める尾道の風景を描写している。
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 まだ誰もいない旧宅には、案内をしてくれる上品なご婦人が邸宅内を掃除していた。入ると、あれこれと案内してくれる。奥へ入ると、志賀直哉が生活していた二間がある。ここを眺めながら、ご婦人が『暗夜行路』で尾道の風景を描写した一節を語ってくれた。背後から聞こえてくるその語りは、なんとも不思議な感じがした。志賀直哉が生活していた空間と語りが渾然一体となったからだろう。玄米茶をいただきながら、しばらく歓談し辞去した。
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 その後、岡山を経由して高松へ。途中、車窓から眺める春の瀬戸内海はいつ見ても美しかった。
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 尾道を出てから2時間ちょっとで高松へ到着。改めて駅の標識を見たら、「さぬきうどん駅」だったらしい。気づかなかった。
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 大きなアーケードのある兵庫町商店街まで歩いて行き、紀伊國屋書店へ立ち寄る。そうすると、5月末日で閉店するという案内が貼ってあった。ショックだった。品数も豊富で、高松へ行くと必ず立ち寄っていたので、とても残念だった。惜別に2冊購入。いずれも、欲しかった書籍なので満足してお別れできた(という言い方もちょっと変だが)。
 
 その後遅い昼食をとるべく、さぬきうどん専門店へ。高松(というか、香川県)へはこれまでに5度訪れているが、これまで一度もこの地でさぬきうどんを食べたことがなかった。
 入ったお店は裁判所前にある「手打うどん植田」。午後2時近くだったため、お客さんは2人だけ。セルフサービスなのが、本場さぬきうどんらしい。かき揚げとおろしぶっかけ(冷)を注文。女性の店主が打ったうどんはほどよくコシもあり、よく利用する近所のさぬきうどん店とは違った味わい。かき揚げも油っぽくなく、うどんとの相性も抜群。あっという間に完食してしまった。
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 お店を出て、駅前のお土産店とコンビニを兼ねたお店でお土産を購入し、倉敷へ向けて出立。ガタンゴトンと揺れる電車のリズムが、この旅を僕の身体へゆっくりと刻み込んでくれた。夕方前に定宿へ到着。誰もいない大浴場へ入って、ゆっくりと身体をお湯につかり、ぼんやりとしていた。これで僕の旅も終わりだと思うとちょっと寂しくなったが、この寂しさも旅の醍醐味なのだろう。
 尾道へ、また行こう。