SIM's memo

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花残月漫読記

 ♪April come she will〜って歌ってのはSimon & Garfunkel(のArt Garfunkel)だが、まったく早いもので世の中はGWです。そんな中でも、今回も何を読んできたかを列挙していこう(以下、著者(訳者・編者名)『タイトル』(出版社、発行年):読了日を明記)。

  1. 野村 玄『豊国大明神の誕生』(平凡社、2018年):4月8日
  2. 梨木香歩海うそ』(岩波現代文庫、2018年):4月22日
  3. 堀川惠子『教誨師』(講談社文庫、2018年):4月23日
  4. 若林 恵『さよなら未来』(岩波書店、2018年):4月25日
  5. 松村圭一郎『うしろめたさの人類学』(ミシマ社、2017年):4月29日

 
 1は豊臣秀吉没後に朝廷から与えられた「豊国大明神」をめぐる問題を丁寧に読み解いている。気鋭の歴史学者だけあって、問題設定(意識)も仮説を丁寧に積み上げ、証明していくところは面白い。
 2は南九州の架空の島を舞台に、昭和初期に調査に訪れた人文地理学者を主人公にした小説。木々や虫、鳥たちの描写は言うに及ばず、主人公を取り巻く島に暮らす人々を描く筆致は、どこまでも透明に思えた。かつて、島に暮らす人々が身近に感じてきた神々の息吹が、明治期の廃仏毀釈と政府による国家神道という制度によって押さえつけられていく。その中でも、敗戦を経て、高度成長期を迎え、島が開発されていく様を50年後に訪れた主人公のなんともいいようのない無力感と寂寞感は、主人公が若き日に触れてきた島の人々が持っていた透明感と対称的に思えた。
 3は重い書籍である。本書の主人公である僧侶で教誨師の渡邉普相の半生は、僕たちと同じく、人間的な余りに人間的なものである。そう思わるのは、渡邉を教誨師の道へと誘った僧侶・篠田龍雄の生き様である。とりわけ、印象深かったのは以下の箇所である。死刑執行が再開された昭和42年10月、篠田が教誨師として、小菅刑務所で死刑執行に立ち会った際の話である(渡邉は初めて死刑執行に立ち会った)。

「先生!私に引導を渡して下さい!」
刑務官たちの手が止まった。みなが篠田の顔一点を凝視した。渡邉は焦った。浄土真宗に「引導」などない、どうする。すると篠田は迷いなくスッと前に進み出た。そして桜井に正面から向き合った。互いの鼻がくっつくほど間合いを詰め、桜井の両肩を鷲摑みにして、しゃがれた野太い声に腹から力を込めた。
「よおっし!桜井さん、いきますぞ!死ぬるんじゃないぞ、生まれ変わるのだぞ!喝ーっ!」
桜井の蒼白い顔から、スッと恐怖の色だけが抜けたように見えた。
「そうかっ、先生、死ぬんじゃなくて、お浄土に生まれ変わるんですね」
「そうだ、桜井君!あんたが少し先に行くけれど、わしも後から行きますぞ!」
潤んだ両の目に、ほんの少しだけ笑みが浮かんだと思った途端、その笑みは白い布で隠された。そこからは、わずか数秒のことだった。(240ページ)

生きて償えないほどの罪を背負った死刑囚たちが死刑になるのは、犯罪のことを考えると当然だという意見もあろう。けれども、人が、制度の下で命を奪うというのはどういうことなのか?この問いは僕たちひとりひとりに突きつけられていた問いであることを、改めて痛感させられた。
 篠田は終生、虫はおろか、木々の枝をも折ったり切ったりすることを忌み嫌うほど、徹底して命を大切にしてきた僧侶だったという。
 
 さて4と5である。4は、僕が唯一定期購読していた『Wired』という雑誌の日本版編集長として活躍していた人の原稿をコンパイルした書籍。やや玉石混交感は否めないものの、キラリと光る文章は視点が数多くあり、2段組で500ページ以上というかなりのヴォリュームだが、一気に読める。
 5は僕と同い年の文化人類学者がエチオピアで経験したことを通じて、人と人とがかかわり生きていくとは何か?を「うしろめたさ」をキーワードに綴った書籍。個人的には、エチオピアでのエピソードの方が断然面白く、また活き活きしていると思った。
 新緑がきれいな5月である。仕事がいきなり忙しくなったが、どんな書籍を読もうか楽しみながら過ごしたい。
 
★4月で面白かった(というか印象深かった書籍は)こちら。

教誨師 (講談社文庫)

教誨師 (講談社文庫)

一気に読まずにいられなくさせる筆致と構成に言葉を失くします。