SIM's memo

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僕の平成史(5)〜ただひたすらに音楽を渇望す〜

 平成5(1993)年、私は高校3年になっていた。友人が亡くなった後、今自分が生きているという「現実」をずっと感じられないまま、虚しさから目を背けるように、淡々と日々を過ごしていた。そんな中、夢中になれたのが音楽だった。バイブルは渋谷陽一氏の『ロック ベスト・アルバム・セレクション』(新潮文庫)と地元の図書館にあった主なロック・ミュージシャンたちのチャート全集みたいな本。今のように、YouTubeで検索して試聴してなんてできなかったので、ただジャケ買いするか、田舎で唯一聴くことができたNHK-FMで夜9時から放送していた「ミュージック・スクエア*1などを聴いて気に入ったのをCDで買うことだった。
 私は60〜70年代の洋楽を好んで聴いていたので、当時ラジオで放送されることはあまりなかった。なので、比較的昔の洋楽が流れた「ミュージック・スクエア」はとても愛聴していた。この番組で私はSqueezeやXTCなどUKのニュー・ウエーブ期の音楽に接触した。その一方、Little Featや10CC、Stevie WonderSteely Dan、Orleans、果てはThe Crusadersなどを聴いていた。当然、まわりでそんなのを聴いている人たちもおらず、夏になればThe Beach BoysThe WhoだDerek & the Dominosだなんて言ってる人はまったくいなかった。かといって、音楽において孤独を感じたことはなかった。あんなに音楽を渇望して夢中になって聴けたのは、後にも先にもこの時だけだった。
 
 夏の終わり、仲の良かった女の子が通う女子校の文化祭へ行った。看護学科に通っていたその女の子たちの同級生は、なんだか大人びていた。子どもだった私は、ヘラヘラしながらただただ中身のない漫談のような話をしゃべり続けていた。
 今にして思うと、やっぱり音楽でも埋められなかった虚しさや「現実」を感じられなかったのかもしれない。とはいえ、音楽は常に私のとなりにあった。その事実のみが、仄暗く、寂しい高校生活の思い出を照らしてくれている。(続)

*1:私が夢中に聴いていた時期のDJたちは、平成3年3月までの担当だった。