SIM's memo

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思い出すことなど(5)

 これまでいろいろと思い出してはつらつらと書いてきたが、なんだか肝心なことをはぐらかして書いているような気がしていた。
 
 19の時に付き合った人は大学で同じ授業を受けていた女の子だった。たまたま隣に座って、こちらが筆記用具を忘れたので借りたのがきっかけだ。まあ、よくあるパターンである。で、その後なんだかこちらがデートに誘って、なんとなく付き合いがはじまったのかなあと思っていたが、ちゃんと告白して付き合いをはじめたのを今思い出した。
 告白したのは、JR府中本町の駅から京王線の府中駅まで歩いていた時だったような気がする。当時ぼくは小田急線沿線に住んでいて、彼女は小金井に住んでいた。なので僕は登戸経由で南武線にゆられて府中本町駅まで行っては、府中でよくデートしていた。
 で、ぼくは歩きながら「付き合ってくださいっ!」とやや喰い気味で言った。梅雨の時だったと思う。その時の彼女の笑顔は今でも覚えている。しかし、歩きながら告白してきたヤツを彼女はよくO.K.してくれたなと今になって思う。感謝しなくては。有難う、こんなヤツのために時間をさいてくれて。
 ぼくにとって、19〜20歳の1年間にとって、府中は特別な街だった。当時イトーヨーカドーにあったレコード店でE.L.OのCDを買ったことをよく覚えている。大国魂神社、レースのやっていない府中競馬場でふたりで一緒に歩く時間が好きだった。そして、なんともいえない場末感ただよう京王線の府中駅前の雑踏も好きだった。そして彼女の笑顔と怒った時の寂しそうな目とつっけんどんな態度。すべてぼくは好きだった。だけど、その彼女は、幻想の府中という街にいた彼女である。こうして彼女のことを書けば書くほど、その幻想から自分が遠く離れていってしまっているような気がする。
 
 さようなら。散々迷惑かけてしまったけど、今は結婚して幸せに暮らしているあなたのことを思い出すことはもうないだろう。寂しいけど仕方ないことだ。
 さようなら、さようなら。そしてありがとう。