SIM's memo

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K:神奈川

 僕が生まれたのは神奈川県。そばに厚木基地があるところだ。生まれて2年後、20代の父と母、そして生まれて間もない妹とともに、縁故のない栃木県はど田舎に移った。大袈裟だけど、「北の国から」の吾郎たちが引っ越した掘建て小屋を今でも直視出来ない。あの雰囲気のまま、何もないところで生活していたからだ。母が連れて来た猫たちと一緒に、妹は仲良く猫のご飯を食べていた。僕はテレビを見せておけばおとなしい子供だったという。
 
 神奈川にあるもうひとつの家には年に数度行っていた。今はないお店や人たち。近くに銭湯があったので、僕はよく行っていた。田舎には銭湯などなかった。今でこそ、田舎には温泉施設が林立しているが、当時はそんなものはほとんどなかった。だから銭湯は珍しかったのだ。僕にとっての神奈川は、銭湯と音楽ショップとレストラン、Yナンバーの車、家をゆらす米軍機の轟音だ。それらすべては、僕の脳内に淡い思い出となっている。何故か、"Today!"以降のThe Beach Boysを聴くと、懐かしの神奈川が浮んでくる。
 
 仕事をしはじめると、数年に一度しか神奈川に行かなくなった。会いたい人も親戚もほとんどいなくなったからだ。そして今。神奈川の家を手放すことになって、家の整理にひと月に数度行っている。マンションばかりたち、かつてあった商店街もただの飲み屋街になってしまい、ただの猥雑な街に成り下がってしまった。こちらとあまり変わらない風景。懐かしい人たちは年を重ね、子供の代になって、そこを離れてしまっている。だんだん、悪い意味でこじんまりしてきてしまった我が故郷。だけど、今は住みたいとは思わない。現実の世界には、もはや僕の故郷はない。今はただ、かつてあった幻の故郷を思い描くことしかできない。
 
 だから、今僕は旅にでたくて仕方がないのかもしれない。