SIM's memo

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2013年の読書を振り返る(1)

 今年も残すところ、あと半月をきった。2013年の読書は、例年にくらべてそれほど沢山読まなかった。とはいえ、良書と巡り会えたのはたしか。節操なくここで振り返るのもなんなので、テーマごとに数回に分けて振り返りたい。

音楽は巡る 〜アメリカから〜

 今年の前半は仕事柄、音楽関係の書籍を意識的に読むことが多かった。数は決して多くはなかったけど、良書に巡り会えた。とりわけ印象に残っているのが、以下の5冊。

 まず、2013年の5本の指に屈するのが『アメリカ音楽史』。著者は慶応の先生で、巽孝之門下(と言っていいのかな?)。アメリカの音楽史を辿るのは簡単なように見えて、実はとーーーーってもムズカシイ。音楽の発生は、当然ながら生活に根ざしている。そして、様々なカルチャーをのみこみながら、アメリカの音楽は再編集されつづけている。そこを厖大な資料を駆使しながら丁寧に読み解いている。本書で2011年の第33回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)を受賞している。納得である。なお、本書とともに、上杉忍『アメリカ黒人の歴史』(中公新書)と併せて読むと、より一層理解が深まると思う。
 アメリカの音楽は黒人たちの歴史ともかなり重なる。『ブラック・ノイズ』は、現代のアメリカ音楽のコアであり、黒人たちの悲しくもたくましい歴史が織り込まれたラップ・ミュージックをめぐる古典的書籍である。著者が黒人でかつ女性というところに注意。本書は単なるラップ・ミュージックをめぐる研究書ではなく、同じ黒人のミュージシャン同士でも男と女という性差によって生まれる問題(DVやセクハラなど)にも鋭く切り込んでいる。研究書ではあるが、構成がしっかりとしているし、訳もこなれているので読みやすい。
 ひところ、大文字の"ROCK"はとどまるところを知らずに膨張していくのかな、と思ったことがある。しかし、近年音楽業界が今ひとつ元気がないと言われて久しいが、『ソウル・マイニング』を読むと、それは表面上のことなんじゃないのかな?と思わされてしまう。著者はブライアン・イーノ先生に見いだされ、U2をはじめ数多くのミュージシャンの作品を手がけた名伯楽。自らもギター片手に精力的に音楽活動を行っている。故郷カナダの寒々とした景色から、アメリカ各地のスタジオで手がけた作品の数々を飾らない文章で綴られている。本書のいいところは、著者が綴る情景から聴こえる音、匂いそして感情が読者にも伝わってくるところ。訳文も著者の意図を十分に汲んでいるのがよくわかり、読みやすい。何よりも、著者のスタンスがタイトルにこれ程あてはまるものはない。個人的にもとっても共感出来る言葉だ。

音楽は巡る 〜日本から〜

 さてさて、長くなってきたので駆け足で残り2冊を。SP盤レコードは、骨董市や古書店の片隅にひっそりと生きている。そして愛好家が多いことでも知られている。SPレコード 蒐集奇談』は、著者の汗と涙とお金をかきあつめてつくられた愛すべき道楽の軌跡である。仕事の合間をぬい、奥様の了解を何とかとりつけながらの全国津々浦々の骨董市などを巡る旅は、著者の息づかいがしっかりと伝わってくる。落語を愛して止まない著者ならではの軽妙な語り口も本書の魅力。
 そんな訳で、最後には小著ながら色々と考えさせてくれた『ラジオのこちら側で』。著者は最近、Inter FMの執行役員になり、また月〜木の朝7時から3時間のラジオ・プログラムも担当している。音楽とラジオを愛する青い目をした若者が、日本にやってきて自らの仕事を振り返っているのが本書のたて糸ではある。しかし本書の魅力は、音楽業界の「いま」から将来を語っていることだろうか。この業界につま先だけでも突っ込んでいる者とすれば、本書で語られる著者の言葉に励まされる思いがする。ちょっとこころを揺さぶられたり、考えさせてくれるのが、魅力的な書籍なんだと思う。(続く)
 

アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで (講談社選書メチエ)

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ブラック・ノイズ

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ソウル・マイニング―― 音楽的自伝

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SPレコード蒐集奇談 (ミュージック・マガジンの本)

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ラジオのこちら側で (岩波新書)

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