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SIM's memo

Books, Foods, Rock 'n' Roll…and more!

2013年の読書を振り返る(3)

 つづいては、こちらのジャンルから振り返ってみる(あまり長くならないよう気をつけます)。

人とテーマの息づかいが伝わってくる 〜評伝・ドキュメンタリー〜

評伝

 まずは評伝から2冊。今から100年以上前に起きたいわゆる「大逆事件」。その主犯格のひとりと目されていたのが『管野すが』その人である。管野すがはずーっと悪女的側面が強調されていた。かつての恋人荒畑寒村の自伝では、愛憎入り交じった調子で管野ことを綴っていたし、漫画『「坊っちゃん」の時代』第四部では、ファム・ファタール的側面が強くでていたと記憶する。本書では、そうした「悪女」的側面を際立たせることなく、管野すがという一人の人間の生涯と思想そして行動を丹念に追っている。そろそろ、女性が書いて、かつ本書を超えるような研究書が出て来て欲しいところではある。
 管野が刑死した頃、慶應義塾大学の予科生だったのが堀口大學である。管野と似て、堀口もまた正当に評価されてこなかった詩人だった。その波乱に富んだ長き一生を、全集の編集者だった著者が丹念に調べ綴っている。複雑なパーソナリティーと柔軟な感性という二面性にこそ、堀口の醍醐味があるし、それがなかったら、彼の訳詩や詩はコクと深みはでなかったであろう。そのことがよくわかる大著だ。
 

ドキュメンタリー

 こちらの3冊はテクノロジーが人間にもたらした悲劇が背景にある。『被爆者アオギリと生きる』は、被爆者のひとりとして語り部となった沼田鈴子さんの姿を追ったもの。婚約者が戦死し、生まれ故郷の広島で沼田さん自らも被爆により左足切断の重傷を追う。絶望の中、かつての職場の庭に植えられていた被爆したアオギリの木に偶然再会。焼けこげた幹から新しい枝を伸ばし,新芽を芽ぶかせている姿に励まされ、再び生き直すことにした沼田さん。2011年の原発事故に大きな衝撃を得て、ほどなくして亡くなった沼田さん。原子力がもたらした悲劇の中を生きる日本の生き方を改めて考えさせてくれる一冊である。
 2011年の原発事故後、100年以上前の足尾鉱毒事件が改めてクローズアップされている。中でも今年没後100年となった田中正造の思想と行動への注目度は高まっている。足尾鉱毒事件をめぐる政府の対応を何よりも象徴していたのが廃村に追い込まれた旧谷中村の存在だろう。『鉱毒に消えた谷中村』は、旧谷中村と足尾鉱毒事件にまつわる連載記事のみならず、今なお公害に苦しむフィリピンまで取材をし、これらの問題が昔の問題ではなく、未だ解決されていない問題であることを教えてくれる。原発事故後、改めて読まれるべき力作である。
 原発事故は、多くの問題をもたらした。とりわけ、原発のある福島県での健康問題は深刻だ。本来ならば、住民の身体を第一に考えられるべき問題が、健康被害をなるべく小さく見せるために組織ぐるみで情報を隠蔽してきたことを福島原発事故  県民健康管理調査の闇』は教えてくれる。「闇」とは、思惑であり利権である。これは原発事故問題に付随する問題ではない。利権構造がある限り、いつどこでも起き得ることである。住民第一といいながら、その実態は住民は所詮メシの種(=利権)に過ぎないのかという憤りさえ覚える。本書は、毎日新聞の記者である著者の思いと悲しみが入り交じった、これまた力作である。
 
 この3冊いずれも大手新聞社の記者の手になる。マスコミ報道はかなり批判を浴びてはいる。しかし、こういう記者たちもいるのだ。楽観はしていないが、かれらの活動は一市民として応援していきたい。(続く)
 

管野すが―平民社の婦人革命家像 (岩波新書 青版 740)

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堀口大學----詩は一生の長い道

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福島原発事故 県民健康管理調査の闇 (岩波新書)

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鉱毒に消えた谷中村―田中正造と足尾鉱毒事件の一〇〇年

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