SIM's memo

Books, Foods, Rock 'n' Roll…and more!

今になって気づいた転機

 先日、親しくさせてもらっている年上の方と温泉へ行ってきた。ちょうどよい湯加減の露天風呂へ行き、頭にタオルをのせながら、音楽の話題、そして高校時代の話に流れた時のこと。

SIM:「高校1年の頃、まわりとはかけ離れてFacesとSimon & Garfunkelを聴いていたんすよ。だから、結構こじらせていたと思うんです。いろんなことを。あ、だけど、こんな僕にも告白をしてきてくれた女の子がいたんす」
年上:「へぇー、で?」
SIM:「朝、電車の中で、知らない女子高生からいきなり、『友達があんたのこと好きだと言ってるんだけど、話してくんない?』って言ってきて」
年上:「SIMくんに話しかけてきた女の子って、ヤンキーなの?」
SIM:「いえいえ、ソフトボールやっていたショートカットの女の子で、顔見知りではあったんす」
年上:「で、SIMくんはどうしたの?」
SIM:「とりあえず、好きだと言ってきてくれた女の子ととちょっと話して、なぜか僕が自宅の電話番号を教えて彼女がかけるという状況になっちゃったんですよねぇ」
年上:「で、向こうは電話かけてきたの?」
SIM:「はい。その日のうちかどうか忘れちゃったんですが、電話かけてきてくれて。ドキドキしましたよ」

その電話でその奇特な彼女から告白されたのだが、何せどういう人で、どんな性格の女の子なのだかわからないので(ただ珍しい苗字だった)、いいも悪いも答えられなかった。なので、ヘラヘラと「あ、ありがとう」と童貞感まるだしでお礼をいったのは覚えている。
 
 さて、問題はここからである。今の僕なら、好きでも嫌いでもなければ、男子校の薄暗い生活から抜け出せる一条の光のようなこの出来事にすがりついて、付き合えばよかったのである。しかし当時、FacesとSimon & Garfunkelとサディステック・ミカ・バンドとBadfingerをこよなく愛していた僕は、彼女と付き合うことをせず、カッコつけてしまったのだ。こじらせ感、ここに極まれりである。
 人によっては、お前が彼女と付き合うと判断しなかったのは、ふつーだと言ってくれるかもしれない。しかし、もしここで彼女と付き合っていたら、こうしてこのネタを広大無辺のインターネット世界の片隅で書くこともなかったろうし、音楽関係のラジオ番組に出ることもなかっただろうし(まして、Facesやサディステック・ミカ・バンドの特集をやるなどなかっただろう)、出版関係で働いてもいなかっただろう。そんなことを年上の方に話したら、「そりゃあ、そうだよ。間違いなく、やってないで、ふつーにサラリーマンになって結婚してただろうね」と言われてしまった。
 
 今にして思えば、あの時彼女と付き合っていたら、僕の人生は今とは景色を見せていただろう。人の痛みにも、少しは早く気づけたかもしれない。そんなことを星が見える夜空の下で、頭にタオルをのせたおっさんが、付き合わなかったという事実を自分の人生の転機だと確信したのだから、そうなのだ(根拠のない自信だが)。
 
 彼女が今何をしているかわからない。きっと幸せに暮らしているのだろう。今あったとしても、きっと僕のことなぞ覚えてないはずだ。覚えてないはずだが、当の僕はというと、どういう因果か、彼女と同じ苗字を冠した神社を目下の企画本でとりあげようかどうかと、ずっと逡巡している。