SIM's memo

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一期一曲(27)

The Housemartins "Flag Day"(1986)
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 1980年代の洋楽はそんなに聴いてこなかった。それ程いいとは思わなかったし、何よりも1960年代のエネルギーに満ちあふれた"Rock"がもう見いだせなくなっていたと思っていたからだ。しかしながら、たまたまふと手にしたThe Housemartinsというバンドのデビュー・アルバム"London 0 Hull 4"はよく聴いていた。中でも、3曲目に入っている今回採り上げる曲は秋にぴったりだと思っている。
 
 20歳の秋(正確には9/21)にこのアルバムを今はなき横浜は伊勢佐木町のVirginで購入した。売っていた場所やこのアルバムを見かけた時のことを今でもはっきりと思い出せる。1曲・2曲目のThe Holliesのようなポップで軽快なMersey Beatの後に、ピアノが全面的にフィーチャーされた"Flag Day"はこころに沁みた。今でもこの曲を聴くと、その頃の秋の風景と大学の先輩と群馬は白根山へ行った時のことを思い出す。
 
 歌詞がシニカルではあったけど、メロディーは日本人好みの郷愁を誘うようなせつなさがある。途中から入る奥行きのあるギターの音色は、遠い彼方へと行ってしまったあの時の懐かしい思い出と共鳴しているかのようだ。
 

ロンドン 0 ハル 4

ロンドン 0 ハル 4

一期一曲(26)

The Millennium "It's You"(1968)
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 1960年代半ば、ちょっとアップテンポでwarmfulなサウンドを特徴とした"Sunshine pop"なるジャンルがCaliforniaあたりで生まれた。この馴染みの薄いジャンルの代表としてThe Millenniumというグループははずすことができない。中でも、かれらの唯一のアルバム"Begin"に収録されている"It's You"は、同時期に発表されたRoger Nichols & the Small Circle of Friendsの"Love so Fine"と並んでとってもキャッチーなpop tuneである。
 
 メンバーでもあった鬼才Curt Boettcher(早世が惜しまれる)のやりたかったことがこの曲にはとてもよくあらわれている。澄んだアコースティック・ギターの音色、変幻自在なコーラス・ワーク、転調の妙に10代の僕はとても驚いた。本当ならば、はじめから通して聴かないとこのアルバムの素晴らしさと意欲はわからないと思っている。けれども、ポップだけどそれだけでは終わらない美しい"It's You"というナンバーに、Curt Boettcherという人がやりたかったことがうまくつめこまれていると思っている。
 
 "It's You"をはじめとするこのアルバムを聴くと、夏がもう終わってしまい、秋にむけて歩みはじめたことを身にしみて感じる。久方ぶりに聴いてみて、あの頃の様々な感情がここまで甦るとは思わなかった。それだけ、このアルバムが僕にcommitしていたことを改めて実感している。
 

ビギン(紙ジャケット仕様)

ビギン(紙ジャケット仕様)

一期一曲(25)

Buffalo Springfield "For What It's Worth"(1967)
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 Buffalo Springfieldはその活動期間がわずか3年余にもかかわらず、かれらがロックの歴史に残した痕跡はあまりにも大きかった。かれらといわず、アメリカン・ロックにおけるエポック・メイキングになったのが"For What It's Worth"である。映画「フォレスト・ガンプ」のサントラにも収録されていたので、知っている人も多いかもしれない。
 
 1966年11月、L.A.のナイトクラブ「パンドラ・ボックス」の閉鎖に抗議するためサンセット・ストリップに集まった若者たちに対し、警察が治安目的で働いた暴力行為を目撃したStephen Stillsによってつくられた。冒頭のつまびくように弾くエレクトリック・ギターと心臓の鼓動のようなバス・ドラム、そしてこれらに間の手を入れるかのようなリフ。そして、Neil Youngのいささか情感のこもったギターでフェード・アウトしていく。あたかも静かなる抗議のように聴こえるのは、プロテスト・ソングと言われている由縁でもあろう。
 
 この曲はかれらにとって唯一のTop 10ヒットとなった。しかし時代の雰囲気をうまく切り取った歌詞とアレンジは半世紀近く経った今でも色褪せていない。時代は次第に不穏な空気に包まれていく。そして、Peter FondaとDenis Hopperが映画「イージー・ライダー」で描いたような殺伐とした「アメリカ」の現実に若者たちは直面せざるを得なくなる。"For What It's Worth"は、そんなアメリカにおけるロックにおいてもひとつの曲がり角を象徴した重要な一曲だったと思う。
 

一期一曲(24)

The Byrds "Chestnut Mare"(1970)
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 The Byrdsというバンドは、その時々によって音楽的スタイルを劇的に変化させていった稀有なグループだった。デビュー当時は、The Beatlesの初主演映画"A Hard Day's Night"でGeorge Harrisonが抱えていた12弦ギターに触発され、リーダーのJim McGuinnがアコースティック・ギターから12弦ギターにチェンジして、Bob Dylanの"Mr. Tambourine Man"をカバーした。これがフォーク・ロックの先駆けとなった。60年代中期にはThe BeatlesThe Beach Boysと相互に影響し合いながら、サイケデリック・ロックを、後期はカントリー・ロックへと変転し、ブルースやR&Bなどの要素を積極的に取り入れていった。その中でもひときわ輝いていたのが、今回とりあげる"Chestunut Mare"だ。
 
 Jim McGuinnのトレードマークとなった12弦ギターが奏でるアルペジオ、カントリー・ロック界のジミヘンと称されたギタリストのClarence Whiteによる激しいフレージングを奏でるアコースティック・ギター。無駄を一切省いた切れのあるビートを刻むGene Parsons、ベースのSkip Battenの演奏も忘れ難い。"Chestnut Mare"はセールス的には決して恵まれなかった。けれども、間違いなくアメリカン・ロックにおける名曲として、今なお生き続けている。
 
 2002年の初秋、地元のTower Recordで2枚組の"Untitled"を購入した。変則的な構成のアルバムの中で、12弦ギターとアコースティック・ギターの音色に常に魅了されてきた。あれから1ダースも年月を経た今なお、僕の耳にはかれらが奏でる音色が耳に残り続けている。秋風のように爽やかで曇りのないあの音色が。
 

タイトルのないアルバム(紙ジャケット仕様)

タイトルのないアルバム(紙ジャケット仕様)

一期一曲(23)

The Doobie Brothers "South City Midnight Lady"(1973)
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 1973年に発表されたThe Doobie Brothers3枚目のアルバム"The Captain and Me"といえば、"Long Train Runnin'"だし"China Grove"である。どちらも人気の高い曲である。しかし、僕にとってはそのどちらでもなく(好きな曲たちではあるけれども)、今回取り上げた曲である。
 
 アコースティック・ギターとスティール・ギターのやさしい音色、朗々とうたうPatrick Simmonsの声、Nick DeCaroによるストリングス・アレンジ。これらのどれをとっても、外部の人間が容易に想像できる"アメリカ"なるものを喚起してくれる。作者でもあるPatrick Simmonsはワシントン州出身ではあるが、おそらくこの曲は彼にとっての"アメリカ"なるものを想像し、追体験しようとしていたのかなと勝手に思っている。途中で切断された高架の高速道路とゴールド・ラッシュ期のアメリカ西部のイメージを想起させる四頭立て馬車を配置したジャケットは"アメリカ"なるものが端的に表されている。そういえば、同じ年に発表されたEaglesの"Desperado"のジャケットが西部開拓時代の伝説のギャング"Doolin Dalton"をコンセプトにしていた。
 
 とはいえ、"South City Midnight Lady"は実のところは、タイトルに表されているようにデルタ地帯のつまり南部地方の音楽へのオマージュでもあろう。かれらに限らず、当時のアメリカン・ロックでは"アメリカ"なるもののルーツを探るという試みが多く見受けられた。それは、当時泥沼化していたベトナム戦争等の政治的な緊張による"アメリカ"の終焉を感じさせる不安定な時期だったからこそ生まれてきたのだろう。Patrickがどこまで意識していたかわからないが、この曲のもつオマージュ力はかれの意思を超えて、時代としっかりリンクしていたんだと思っている。
 

一期一曲(22)

Free "My Brother Jake"(1970)
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 Freeというバンドの音楽的傾向を見ると、今回取り上げた曲はかなり異色に聴こえるかもしれない。一般にFreeと言えば、"Fire and Water"に代表されるようなbluesあるいはboogie等のroots rockをかれらなりに解釈したrockを得意としていた。けれども、"My Brother Jake"はヴォーカルのPaul Rogersが奏でるピアノを全面的にフィーチャーした仕上がりになっている。
 
 学生の頃、Freeのベスト盤を購入してこの曲を聴いた時、何故またこの曲だけまったく違う毛色をしているのか?と不思議に思った。音楽的経験値がさほど高くない頃には、メロディアスでどこかせつない雰囲気をもったこの曲に惹かれた。けれども齢を重ね、Freeのアルバムがリマスタリングされ紙ジャケットとして再発された時に聴き直すと、決してこの曲が異色ではないことに気付いた。やっぱり根っこはbluesなのだ。テイストはちゃんと残っている。"My Brother Jake"はシングル・カットされ、アルバム未収録である。同時期に発売され、まったく売れなかったアルバム"Highway"に収録されている曲と併せて聴くと、どこかロマンティックな雰囲気が残っている。これはおそらくPaul Rogersの「色」なのだろう。そういえば、同時期に発売されたEric Claptonのソロ・アルバムと共通する雰囲気がある。
 
 夏が過ぎ、秋の雰囲気がゆっくりと漂ってきた頃に"My Brother Jake"を聴くと、やっぱりせつない。3分弱でコンパクトにまとまった構成ではあるが、いささか慌ただしいつくりにも聴こえるせいなのかもしれない。
 

ハイウェイ+6(紙ジャケット仕様)

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一期一曲(21)

Creedence Clearwater Revival "Lodi"(1969)
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 Creedence Clearwater Revival(CCR)は60'sから70's初頭のアメリカン・ロックシーンにおいて、名実ともに最高のバンド(という言い方が似合う)だったと思う。7枚出したアルバムの中では、個人的には3枚目のアルバム"Green River"が一番好きである。中でも、今回取り上げた曲がとりわけ好きだ。
 
 リーダーのJohn Fogertyのペンによる"Lodi"は、落ちぶれたあるミュージシャンの苦境をうたった曲。主にカントリー(・ロック)系のミュージシャンたちにもカヴァーされていた。淡々としたリズムとどこか郷愁と寂しさを誘うメロディーがカヴァーしたミュージシャンたちの琴線に触れたのかもしれない。John Fogertyという人は、結構懐の深いミュージシャンだと思う。何も”Have You Ever Seen the Rain”だけがかれらの代表曲ではないのだ。
 
 この曲を聴くと、よく晴れた秋の空を思い出す。秋の空は夏の空と違って、ちょっと霞がかったすっきりとした青ではない。どこか柔らかな印象のある青に白い雲がぷかぷかと浮べているのが秋の空だ。幾度となく繰り返し聴いた"Lodi"は、理屈抜きで心にすっと入ってくる、僕にとっての"演歌"みたいな存在なのかもしれない。
 

グリーン・リヴァー(40周年記念盤)(紙ジャケット仕様)

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一期一曲(20)

Oasis "Rock 'n' Roll Star"(1994)
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 1994年8月31日。正式発売の前日に当時住んでいた近所にあったYAMAHAのCDショップでかれらのデビュー・アルバム"Definitely Maybe"を購入した。何故ここまで覚えているのだろう?たまたま店頭で見かけてジャケ買いしただけである。その後のかれらの活躍は皆さんご存じの通り。けれども、一聴してそこまで売れるとは正直思わなかった。
 
 "Definitely Maybe"はグランジの余韻を残しつつ、60'sのストレートなロック・テイストを濃厚に漂わせた荒削りなアルバムだった。巨匠Stone Rosesを彷彿とさせるサウンドだったけど、あくまでも荒削り。The Beatlesのデビュー・アルバム"Please Please Me"のドライヴ感を思い出した。その中でも、1曲目の"Rock 'n' Roll Star"は当時のかれらのスタンス、スタイルすべてを象徴した曲である。今ではすっかりエヴァー・グリーン感が漂ってしまっている。けれども、当時のエネルギーは今でも感じることができる。
 
 当時はリアルタイムのロックをよくフォロー・アップしていた。低迷していたロック界に、僕が親しんできた60'sのテイストが甦ってきつつあった。その口火をきったと感じたのがOasisだった。今思うと、僕の線香花火のような青春は、かれらの音楽がすぐそばにあったということに、今更ながら驚いてしまった。そして、時の流れに言いようのない寂しさを感じる。
 

オアシス 20周年記念

オアシス 20周年記念

一期一曲(19)

The Jam "The Place I Love"(1978)
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 The Jamというよりも、Paul Wellerというミュージシャンは一時憧れたものである。才能があってしかもルックスもよいとなると、田舎から出てきたばかりの洟垂れ小僧だった僕はPaul Wellerになれる訳がない。せいぜい彼が影響を受けた音楽をただただなぞるだけだった。
 そんな我が音楽的変遷を語る上で重要な存在であった若きPaul Wellerの才気が炸裂する前夜のアルバムとして"All Mod Cons"は印象深いアルバムである。数ある佳曲の中でも、僕はことの他、今回とりあげた"The Place I Love"が好きだった。
 
 "All Mod Cons"を今改めて聴くと、勢いの中にもすでにかれらが好んでいたR&Bなどのブラック・ミュージックの影響がよくわかる。"The Place I Love"もテンポを落とすと、Wilson Picketの"In the Midnight Hour"のような曲にも聴こえる*1。そして、ベースとドラムのリズム隊がThe Jamの楽曲を支えているのがよーくわかる。そういう点では、当時の他のグループとはちょっと異なっていたように思う。
 
 "All Mod Cons"は、かれらの若さと才気と勢いの緊張状態が生み出したドライヴ感ある一枚である。僕にとっては、"The Place I Love"はそれを象徴する曲である。
 

オール・モッド・コンズ(紙ジャケット仕様)

オール・モッド・コンズ(紙ジャケット仕様)

*1:"All Mod Cons"の前のアルバムでカヴァーしている

一期一曲(18)

Sex Pistols "No Feelings"(1977)
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 僕にとっては、Punk Movementは線香花火のようなイメージ。ドタバタしながらも、当時の熱気を何とか閉じ込めたのがかれらのデビュー・アルバム"Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols"であろう。その中でも、ストレートなロック(というよりも、僕にはポップに聴こえた)なのが、3曲目の"No Feelings"だ。高校生だった頃、このアルバムを購入した当初はあまりいいとは思わなかった。けれども、何のきっかけがあったのかわからなかったが、このアルバムのソリッドでタイトな音に心惹かれていた。その功績はかれらにというよりも、プロデューサーのChris ThomasとエンジニアのBill Priceによるものだ。
 
 そういえば、この文章を書きながら、ちょっとこのアルバムのことを調べていたら、Sid Viciousのベースは"Bodies"1曲だけなんすね。Chris ThomasがSidの技量に不満を抱いたので、代りにGlen Matlockになるも、ギャラの不払いで揉めて、"Anarchy in the UK"のみがかれの演奏として収録されている。で、結局残りの曲をギターのSteve Jonesが演奏している。結果として、ソリッドな仕上がりになっているのは、ChrisとBillのおかげという訳である。
 
 個人的には、このアルバムの雰囲気とBeatlesの"White Album"の仕上がりは似ていると思っている。試みに、"No Feelings"と"White Album"に収録されているひときわパンキッシュなナンバー"Everybody's Got Something to Hide Except Me and My Monkey"を聴き比べて欲しい。いわゆるPunkの音というのは、BeatlesにというよりもChrisによって既に用意されていたことがよくわかるだろう。
 

勝手にしやがれ(紙ジャケット仕様)

勝手にしやがれ(紙ジャケット仕様)