SIM's memo

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AVの昨日・今日・明日(2)

 AV監督のカンパニー松尾は、ヴィデオ・カメラ片手に、様々な女性たちと対峙してきた。彼のスタイルはいわゆる「ハメ撮り」という。カメラ片手に自らが行為に及ぶところを撮影のことだ。AVのレゾン・デートルを単刀直入に、見る側のマスターベーションの一助であると述べてしまうと、松尾の作品のすべては必ずしも当て嵌まらない。最近見た松尾の作品の中で『私を女優にしてくださいAGAIN 13』HMJM:2013年3月リリース)がその典型であろう。
 
 基本的に、出演している女性(というか、大方はAV女優なのだ)がメインである。しかし、このシリーズのこの作品の主人公は、基本的に監督である松尾である。松尾のセルフ・ポートレートである。なので、先のAVにおけるレゾン・デートルからすると、まったくもって意味をなさない可能性が高い。もっとも、松尾の作品のファンであれば見るのだろう。僕個人は、出来不出来の激しさはあるものの、基本的に彼の作品は好きである。今回の『私を女優にしてくださいAGAIN 13』は、いいものをつくりたい/つくろうとする意志と、私生活の問題と松尾という一個人が抱える空しさの狭間に揺れる姿が垣間みることができる。
 松尾の魅力は、ある女優と松尾自身ががっぷり四つに組んでつくりあげていくところにある。個人的には、AV女優の藤咲飛鳥がヨガのインストラクターの資格を取得するのにインドへ同行した『YOGA』(2008)が秀逸だと思っている。藤咲の人生と松尾自身のつぶやきがうまく絡まり合った作品だった。単にセックスをカメラ前でするのではなく、カメラに映る人物たちの人生が見え隠れする先にあるセックスを見せるのが、松尾なりのAVのひとつの姿なのだろう。ここには、消費され消尽される運命にあるAVというかたちに、ささやかに抗う姿さえ見えてくる。
 
 『私を女優にしてくださいAGAIN 13』を見た時、消費され消尽される運命にあるAVというコンテンツにささやかながら抗う姿はなかったと感じた。もっとナイーブでもっと疲れていた。松尾自身のポートレートを描くのを許される唯一の場所であるこのシリーズには、前回書いたAV男優の加藤鷹の憂いが重なって見えてくる。AVは確かに消費される運命にある。しかし、お金を生み出す打ち出の小槌ではなく、もっと不可解な存在としてのエロスをどう描くか。現時点での松尾の迷いと疲労と、それでも続けていかなくてはという使命感がないまぜになった、AVという業界の来し方行く末が見えてくるような感じがした。