SIM's memo

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弥生読書漫談

 すっかり4月になってしまい、先月読んだ本のまとめを残しておくのを先延ばしにしてしまった。年度またぎはいかんなあ。という訳で、2月に続き3月も読書にあてる時間があまりなかった。したがって、今月も2冊、しかも電車での移動中に読了したものである。
 
 まず、小島政二郎の『眼中の人』(岩波文庫)。小島の名を知る人はだんだん少なくなってきているように思う。小島は昭和を代表する大衆小説家にして、食道楽の随筆を多数したためた作家でもあった。本作は、その小島が兄事していた芥川龍之介を中心に描いた自伝的要素の強い小説である。個人的には『小説 芥川龍之介』(講談社文藝文庫)の方が、筆致の緊張感や文章のリズムなどで上だと思っている。とはいえ、『眼中の人』前半部分の己の作品が一向に陽の目をみないことへのいらだちと菊池寛への複雑な思いが交錯するあたりは印象的だった。決して面白いものではないが、こころに不思議と残るという点では、この作品は隠れた名作と言えそうだ。
 そしてもう1冊は、ウンベルト・エーコ『小説の森散策』(岩波文庫)。アメリカはハーバード大学のノートン記念講義(だったはず)のノートをもとにした小説をめぐる思索の旅。実はこの書には姉がいる。エーコの盟友にして先輩でもあったイタロ・カルヴィーノ『アメリカ講義』(岩波文庫)だ。この2冊を読めば、現代における小説を語り考えることの様々な問題を一望できる。個人的には、卓抜な比喩とわかりやすさからカルヴィーノの本を勧めたい。とはいえ、エーコの本もカルヴィーノにオマージュを捧げている。なので、読む人を飽きさせない構成にはなっている。エンターテインメント小説も書いているエーコならではの心遣いである。

眼中の人 (岩波文庫)

眼中の人 (岩波文庫)

ウンベルト・エーコ 小説の森散策 (岩波文庫)

ウンベルト・エーコ 小説の森散策 (岩波文庫)