SIM's memo

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一期一曲(37)

The Smiths "This Charming Man"(1983)
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 The Smithsというバンドは、よくも悪くも(というかそれが全てなのだが)ヴォーカルのMorrisseyとギターのJohnny Marrというふたりの個性による花火をエネルギーとしていたなあと思う。そして、Morrisseyの書くひねくれるけどウィットに富んだ歌詞とJohnny Marrが奏でる変幻自在のギターと彩り豊かなソングライティングこそが、The Smithsの真骨頂だった。とりわけ、2枚目のシングルでかれらの紙価を高めた曲でもある"This Charming Man"を聴くと、そんなことを思う。
 
 繊細だけど攻撃的なイントロのギターではじまり、The Supremesの"You Can't Hurry Love"でおなじみのドラミングとベース・ライン。そしてMorrisseyのやや野太くもガラスのように脆そうな歌声。これらがひとつとなり、この曲でしか出せないグルーヴ感でもって"This Charming Man"は構成されている。懐かしき80'sのイギリスのミュージック・シーンの空気が漂ってはいるけれども、それを抜きにしても今なお新鮮な輝きを失っていない。個性と緊張感が大切である何よりの証である。
 
 僕がはじめてこの曲を聴いたのはいつだったのだろう?と思い出そうとした。おそらく20代半ばだったのではないかなと思う。はじめはMorrisseyの歌声に馴染めなかったが、Johnny Marrのカラフルなギター・プレイと曲にだんだんと魅了されていった。この曲は不思議と、その時々の記憶が結びついておらず、聴く度に純粋に向かいあえる稀有な曲なんだなあと改めて実感している。記憶に覆われることの多い曲のなかで、それはとても貴重だと思っている。だから、いつまでも聴いていたいなと思う。
 

一期一曲(36)

Buzzcocks "Ever Fallen in Love (With Someone You Shouldn't've)"(1978)
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 1970年代中頃よりアメリカとイギリスでほぼ同時に起こったPunk Movementの中でひときわ異彩を放っていたのが、イギリスのバンドであるところのBuzzcocksであろう。かれらを見ればよくわかるのだが、フロントにたつPete Shelleyはどう見てもぱっとしないなで肩のオッサンにしか見えない。歌声も何だかすっとんきょんな感じ。けれども、キャッチーだけどどこか知的でひねくれた歌詞はイギリスにおけるミュージック・シーンの王道を歩んでいる。そんなかれらの最大のヒット曲が今回とりあげた曲。何度も言うが、見た目がまったくぱっとしないのに、奏でるメロディーと演奏には疾走感がある。このギャップがかれらの最大の特徴(長)だと言える。
 
 "Ever Fallen in Love"は6枚目のシングル曲。実はかれらの初期の曲は荒削りだが、魅力溢れるものが多い。デビュー曲の"Orgasm Addict"はまじりっけなしのPunkなのだが、どこかポップでわかりやすい。かれらの先達はBeatlesなどのイギリスのギター・バンドであることがよくわかる。そして、Buzzcocksのもうひとつの特徴が1920〜30年代のドイツの藝術学校Bauhausなどの構成主義的でモダンなジャケット・デザイン。かれらのセンスのよさは他のバンドとは一線を画していた。
 
 個人的には、20歳の秋によく聴いていた。若い頃にありがちな、モヤモヤとした行き場のない感情をかれらの音楽を聴くことでちょっとだけでも解消されていたような気がする。どこか懐かしさがかれらの音楽にはいつも漂っていた。
 

ラヴ・バイツ

ラヴ・バイツ

一期一曲(35)

Average White Band "Cut the Cake"(1975)
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 スコットランドといえば、ウィスキーにタータン、そしてソウル(リズム&ブルース)である。あまり知られていないが、スコットランドではソウル(リズム&ブルース)がかなりもてはやされていたという。その中でも1970年代のスコットランドで、白人のソウル・バンドとして活躍していたのがAverage White Band(AWB)である。とりわけ、かれらの持ち味であるソウルフルでファンキーかつメロウなサウンドを聴かせてくれるのがアルバム"Cut the Cake"。中でもタイトル・トラックはその何よりも象徴的な1曲である。
 
 このアルバム発表の前年、ドラムスのRobbie McIntoshがドラッグの過剰摂取で亡くなり、急遽Robbieの友人だったSteve Ferroneが加入した。当初Steveはバンドの名前と自分の黒い肌色がバンド・イメージと合わないとして加入すべきか否かかなり悩んでいたという。しかしメンバーたちの強い要望もあり加入を決心したという。結果的にSteveが加入したことで、皮肉な話だが、AWBのリズム・セクションが骨太かつファンキーになった。そしてかれらを代表する1枚として好セールを記録。ソウル愛好家の高い評価を受けた。プロデューサーはソウルの名門AtlanticのArif Mardin。AWBの音がタイトかつメリハリがあるのは、Arifの手腕と評価していいだろう。
 
 秋が深まるにつれ、僕はこのアルバムを聴きたくなる。Alan GorrieとHamish Stuartのハーモニーとリズム&ホーン・セクションの絡まり合いが落葉を踏みしめるように心地よく聴くことができる。そして何よりも、Cut the cake and please let me eat!と叫びたくなる。名盤なので、リマスター盤&紙ジャケット化を切に要望したい。
 

カット・ザ・ケイク

カット・ザ・ケイク

一期一曲(34)

Steely Dan "Doctor Wu"(1975)
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 Steely Danはするめみたいなバンドである。聴けば聴く程味わいが深くなる。はじめて聴きはじめた時から20年以上経ってもなお、新しい発見がある。その中でも、はじめてSteely Danを聴いたアルバムが「うそつきケイティ」の邦題がつけられている"Katy Lied"に収録されているこの曲がたまらなく好きだ。
 
 派手さはない曲である。けれども、ピアノ(たぶんMichael Omartian)・ベース(Chuck Rainey)・ドラムス(Jeff Porcaro)のアンサンブルが終盤に向かって徐々に激しくなってくる。この緊張感がたまらない。わずか4分余につめこまれた魔法のような楽曲。"Katy Lied"を象徴するような一曲である。
 
 "Katy Lied"というアルバムは決して大作ではない。けれども、名うてのミュージシャンをうまくさばき、使いこなしながらも、バンドの形態をもなんとか壊さないでやっていこうとしているところが特徴である(だから、裏ジャケットを見ると、主要メンバーの顔写真がある)。これを中途半端という人もいるかもしれない。けれども、完璧主義ともいえるスタジオ・ワークとバンドにしかだせない緊張感がないまぜになった過渡的なアルバムとして、他のSteely Danのアルバムにはない魅力を今なお輝きつづけている。
 

うそつきケイティ(紙ジャケット仕様)

うそつきケイティ(紙ジャケット仕様)

一期一曲(33)

The Beatles "Revolver"(1966)
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 ここでは、ある1曲をめぐってあれやこれやを綴っているが、今回だけはアルバム1枚すべてをとりあげたい。というのも、ちょうど26年前の今日、生まれて初めてアルバムを購入したのが"Revolver"だったからだ。
 
 この年の夏、父か母のどちらかが持っていた東芝EMIの古いBeatlesのカセットテープを見つけ、1曲目に流れた"I Feel Fine"を聴いて衝撃を受けた。爾来、CDを聴くためのオーディオなんぞ持っていなかったので、もっぱらカセットテープを聴き続けていた。それがどういうきっかけか、父がCDを聴くためのオーディオを購入してくれることになった。それで僕はなけなしの小遣いを貯めて、Beatlesのアルバムをはじめて買うことになった。
 
 校内の合唱コンクールが終わってすぐ、地元にあるたった1軒の小さなレコードショップに行った。そこでBeatlesのアルバムの中から、"Revolver"を選んだ。何故このアルバムにしたのか、今となってはまったく思い出せない。3,200円というかなり高価だった。購入した時の嬉しさは今でも思い出せる。だけど、何故"Revolver"にしたのかは思い出せない。気持ちはいつまでも忘れないものなのだろう。
 
 急いで帰宅し、すぐに聴いた。"One Two Three Four, One Two…"というカウントではじまる1曲目の"Taxman"は、エッジの効いたギターのカッティングがとても印象的だった。カセットテープで聴いていたBeatlesはここにはいなかった。もっとぶっ飛んでいた。そして、半分夢中になり、半分は理解出来なかった。Kraus Voormanの手がけるジャケットをふくめて、何もかも尖っていた"Revolver"に圧倒されたのは確かだった。
 
 その後、間髪入れずに"Rubber Soul"、"Beatles for Sale"を親に買ってもらった。正直、"Revolver"よりは親しみやすかった。けれども、振り返って、はじめに買ったアルバムが"Revolver"でよかったなと思う。今では、Beatlesのアルバムの中ではWhite Albumとともに好きな1枚である。そして、"Revolver"が僕にもたらした影響は、想像以上に大きかったと今になって思う。聴く度に新たな発見がある1枚である。
 

リボルバー

リボルバー

一期一曲(32)

Billy Joel "Get It Right the First Time"(1977)
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 Billy Joelの曲は、はじめて聴いた時からどこか懐かしさが漂っていた。おそらく、リアルタイムで聴いていた人にとってもそうだったのかなあと想像する。とりわけ、かれの代表作ともいえるアルバム"The Stranger"は、全曲これ懐かしさ満載の傑作である。中でも、僕は今回とりあげる"Get It Right the First Time"が好きだ。
 
 "Don't believe the first impressions"ではじまるこの曲は、アルバムの中でもひときわ軽快なテンポで歌われている。これがいいのだ。Billy Joelのいいのは、ちょっとラテンぽい、ちょっとビートルズっぽいという「ちょっと〜ぽい」ところ。声量があるので力強く唄えるし(この人は根っからのロックン・ローラーなのだ)、切々とも唄える(だから"Just the Way You Are"は名曲なのだ)。どちらかの極に振り切らない絶妙なバランスこそ、Billy Joelの魅力である。その魅力が"Get It Right the First Time"のような佳品にこそ発揮されている。
 
 "The Stranger"というアルバムは、僕にとっては学生の頃の秋を象徴した1枚である。このアルバムを聴いただけで、あの頃に戻ることができる。その中でも、"Get It Right the First Time"は少しだけ雲行きが怪しくなってきた僕の学生生活の中で、ささやかに励ましてくれた曲としても忘れ難い。とはいえ、やっぱり第一印象が重要なんだなあと様々な経験を積んでいく中で学んでいったのだけれども。
 

一期一曲(31)

Bay City Rollers "Rock n' Roll Love Letter"(1976)
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 時の経過とともにふりかえってみると、音楽的によかったんじゃないかなあと思うバンドがいる。個人的には、その代表格がBay City Rollersである。その中でも、今回とりあげる"Rock n' Roll Love Letter"は、キャッチーだけどどこかせつなさが残るメロディーというパワー・ポップの王道をゆく曲でかれらの作品の中で一番好きである。
 
 まず、この曲がかれらのオリジナルではなく、1974年にアメリカのミュージシャンであるTim Mooreが発表した曲であること、そして本国イギリスではリリースされず(当然ながらオリジナル・アルバム未収録)、アメリカやカナダそして日本向けにリリースされたシングルだったことにちょっと驚いた。おそらくこのあたりは、レーベル元であるAristaのみならず、かれらをプロデュースしていたJimmy Iennerの意向もあったのかもしれない*1。ちなみに、オリジナルよりもアップ・テンポにしたためか、曲本来のもつドライヴ感が際立って、良質のパワー・ポップ・ナンバーに仕上がっている。これもまた、パワー・ポップの雄を手がけていたJimmy Iennerの手腕であろう。
 
 この曲を聴くと、10月のちょうど今ごろ、親戚が住む千葉県は野田にある清水公園へ行ったことを思い出す。当時入っていたサークルのメンバーと一緒に清水公園の水上アスレチックで遊んだのだ。その日僕は親戚の家へ一泊したのだが、その頃よく聴いていたのがこの曲だった。先日、野田の伯父が鬼籍に入り、ますますあの頃が遠くなってしまった。けれども、曲にまつわる思い出は消えることはない。
 

*1:当時、Jimmy Iennerが手がけていたEric CarmenやGrand Funk Railroadたちの成功例から導いた方針であることも容易に想像できる。

一期一曲(30)

Eric Clapton "Let It Grow"(1974)
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 長らく薬物中毒の闇にのまれていたClaptonの起死回生の1枚として世に出た"461 Ocean Boulevard"の中でも、いっとう美しい曲が"Let It Grow"。淡々とうたうClaptonの声が深まりゆく秋にぴったりである。ジャケットは、アメリカは西海岸のリゾート地のような、いわゆるレイドバックしたClaptonの表情なのだけれども。
 
 Claptonのこうしたロマンティックでメロディアスな曲のはしりは"Easy Now"なのだが、中でも個人的にはこの曲が一番好きである。高校1年の秋、"Motherless Children"ではなく(この曲も好きだった)、"I Shot the Sheriff"ではなく(ポップだと思った)、"Let It Grow"を一番よく聴いていた。当時好きだった同い年の女の子とは友人関係のまま、なんの進展もなく思い出と追憶の中で生きていた僕にとって(少々大袈裟だが)、この曲はセンチメンタルになれるし、思い出の世界へいざなってくれる曲でもあった。
 
 あれから20年以上の年月が経過し、"461 Ocean Boulevard"の素晴らしさや魅力を再発見した今、やっぱり"Let It Grow"は、春でもなく夏でもない秋にこそ聴きたい僕にとっては特別な曲である。
 

461オーシャン・ブールヴァード

461オーシャン・ブールヴァード

一期一曲(29)

Manassas "Johnny's Garden"(1972)
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 Stephen Stillsというミュージシャンは実に多彩な人である。彼の魅力が一番よくわかるアルバムといえば、Manassas名義で発表されたアルバム"Manassas"に指を屈する。ラテン・フレーバーあふれるロックからカントリー、アコースティック・ギターを全面的につかった曲やファンキーな曲、そしてブルージーな曲などStephen Stills(と実はChrist Hillmanも重要)のフィルターから見えてくるアメリカン・ロックを楽しめる。色々好きな曲があって迷うのだが、個人的には今回採り上げる"Johnny's Garden"がお気に入りである。
 
 今年O.A.されたラジオ番組の正月特番のゲストで呼ばれた時、この曲をチョイスした。アコースティック・ギターの曇りのない音色と静かな雰囲気を感じさせるところが冬の青空と合っていると思ったので選んだ。そして、Stillsのリラックスした声が曲も合っていた。
 
 ヴァラエティ豊かなこのアルバムは、アメリカン・ロックの入門的一枚としておすすめしたい。秋晴れの午後をこのアルバムを聴きながらドライブすると、なんだかアメリカは西海岸から先の砂漠地帯を疾走しているような気分に浸れる幻想的なアルバムでもある。
 

マナサス(紙ジャケット)

マナサス(紙ジャケット)

一期一曲(28)

The Flying Burrito Brothers "Older Guys"(1970)
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 Country Rockを語る上で最も重要なバンドといえば、The Flying Burrito Brothersである。とりわけ、死してなお影響力を放ち続けるGram Parsonsが結成したバンドとみなされているからなおさらである。
 
 A&M時代に3枚のアルバムをリリースしていたが、個人的には2枚目の"Burrito Deluxe"に思い入れがある。チャートに入らず商業的に失敗とみなされていたし、デビュー・アルバムの緊張感はないしクオリティーは劣ってはいる。けれども、バンドとしてのまとまりが出て来た音に仕上がっているし、何よりもGram Parsonがなんとかロックンロールしていた。
 
 高校2年の時、地元の図書館に「ウェスト・コースト・ロックの軌跡」という1960年代中期から70年代初頭のアメリカは西海岸のミュージシャンたちのPVを集めた4巻のヴィデオテープが置いてあった。その中に、モノクロのかれらのPVがあり、そこで歌われていたのが"Older Guys"だった。船上でかれらがこの曲を演奏している姿はちょっとはにかんでいた。とりわけ、ヴォーカルのGramのルックスとオーラに僕は魅了された。高校時代の僕にとってアイドルはJeff BeckとGramだった。そしてこの曲が収録されている"Burrito Deluxe"を20歳の秋に、たまたま今はなき横浜のHMVでみかけて即購入したことを思い出す。
 
 はじめてPVを見てから10年以上経った後、YouTubeでカラーのこのPVを見た。けれども、やっぱりモノクロver.の方がよかった。僕にとっては、大瀧さんの"君は天然色"ではないけれど、"Older Guys"のPVは「想い出はモノクローム」そのものである。
 

ブリトウ・デラックス+2(紙ジャケット仕様)

ブリトウ・デラックス+2(紙ジャケット仕様)