SIM's memo

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後藤明生revisited(上)

ついにコレクションが

 最近、後藤明生の周辺が賑やかだ。大変めでたいことである。思えば、彼が亡くなった1999年以降、僕はてっきり、ほどなく全集がでるものだと勝手に思っていた(しかもK談社で)。しかし時は流れ、彼の作品が気軽に読める文庫版も品切れとなっていった。そして、この昨今の賑やかさである。正直、感慨がひとしおである。
 思えば、機運は数年前からあった(と思う)。きっかけは2013年10月、後藤明生の実子である松崎元子さんが代表を務める「アーリーバードブックス」による後藤作品の電子書籍化だろう。それからというもの、twitter上での後藤作品を読んだ人たちによる感想などを読みながら、こんなにも後藤明生の作品に親しんでいる人たちがいたことに驚いた。そして、今年(2016年)秋の『後藤明生コレクション』刊行開始である。国書刊行会からの刊行というのもサイコーだ。「文学の冒険」そして「未来の文学」シリーズ等を企画している出版社だから、このコレクションはその流れを受け継いでいると勝手に思っている。
 場所は揃った。あとは、読み手が集うのみである。いやあ、めでたい。
 

思い出 〜後藤明生との出会い〜

 さて、ここで個人的な思い出話をしたい。
 僕が後藤明生の作品と出会ったのは25歳の時。当時、大学院の試験に落ちてそのまま大学を卒業し、定職につかずにいた。また大学院を受験しようとしていたからだ。家庭教師・パソコンのインストラクター、そして発掘現場の作業員をかけもちで仕事をしていた。
 そんな日々を過ごしていたある暑い夏の日、僕は講談社文芸文庫版の『挟み撃ち』を購入した。きっかけは、同じく講談社文芸文庫の『近代日本の批評2 昭和篇(下)』を読んだこと。ここで、蓮實重彦が「内向の世代」について語っている中で、後藤明生をかなり評価(というか一押し)していた。そこで『挟み撃ち』について言及していたのが強烈な印象として残っていた。それで実際に読んでみたいと思ったのだ。
 一読して、ぎっしりつまった文字と行間。そして、「饒舌体」とも言える途切れることなく続く文章。これが夏のうだるような暑さと相まって体力がありあまっていた僕にはグッときた。そして、弧を描くようになだらかに話題が脱線していくあたりに、また強烈なインパクトを覚えた。ほぼ同時に読んでいた安部公房の『砂の女』とこの小説が25歳の夏であり、その年の夏の全てだった。
 さて、『挟み撃ち』のどこがなぜ凄いのかあまりわからないまま、熱にうかされたかのように、発掘現場で一緒に働いていた3歳年上の同僚に「これ、面白いっすよ」と勧めた。そして彼も早速購入して読んだことを報告。「ロックだ」と答えたことが今も印象に残っている。そう、『挟み撃ち』は、当時の僕にとってロックであり、さらに言えば、リズム&ブルースだった。(続く)
 

挟み撃ち 後藤明生・電子書籍コレクション

挟み撃ち 後藤明生・電子書籍コレクション